私たちの側からの生活保護法改正(社会扶助法)試案 2002年改訂版

第1章 総則

第1条 目的
この法律は、憲法第25条の規定に基づき、日本国民及び日本に滞在するすべてのひとに対し、健康で文化的な、人間の尊厳にふさわしい生活を保障することを目的とする。

第2条 権利
すべての人は、健康で文化的な、人間の尊厳にふさわしい生活を侵害された場合もしくは侵害されるおそれがある場合に、この法律に規定する社会扶助を請求する権利を有する。

第3条 平等
すべての人は、この法律の適用にあたり、平等に取り扱われる権利を有する。

第4条 適正手続の保障
社会扶助の実施にあたり、すべての人は、適正な審査を受け、十分な説明を受けるなどの、人間の尊厳にふさわしい適正な手続過程が踏まれることを保障される。社会扶助の開始、変更、停止、廃止、却下、指示などの、この法律に基づく処分は、わかりやすくかつ十分な理由・根拠条文を記した書面によっておこなわれなければならない。この法律に基づく助言は、請求者が求めた場合すべて文書化される必要がある。社会扶助の記録は、利用者本人には開示されなければならない。

第5条 自己決定の原則
社会扶助の実施においては、生活の保障が徹底されるとともに、人間の尊厳が何よりも確保されなければならない。各給付の方法や態様、ケースワークのあり方についても、請求者の自己決定の原則は何よりも尊重されなければならない。

第6条 生活再建型の原則
社会扶助は、請求者の従来の生活水準を、健康で文化的かつ人間の尊厳にふさわしいものに引き上げることを主眼にした、生活再建型のものでなければならない。資産の取り扱いについては、特にこの原則が貫徹される必要がある。

第7条 在宅の原則
社会扶助は、請求者の従来の生活を継続発展させることを基本にする。在宅給付はこの法律による社会扶助の原則である。住居を有しない請求者については、本人の希望に応じて、すみやかに住居が確保されなければならない。
本条は、住居での生活を強制することを意味するものではないことは当然であり、請求者の自己決定により、施設その他の生活様式を選択することは可能である。

第8条 個人単位の原則
社会扶助は、個人単位におこなうことを原則とする。ただし、家族が生活をともにしている場合は、家族全体を単位におこなうことを妨げない。

第9条 金銭給付の原則
社会扶助の給付は、金銭給付によっておこなう。ただし、現物給付が適切な場合はそれによるものとする。

第10条 用語定義
この法律における社会保障給付を社会扶助と総称する。社会扶助を実施する責任のある自治体を実施機関と呼ぶ。実施機関がこの法律の実施のためにもうける事務所を福祉事務所と呼ぶ。実施のためにおかれる担当職員をケースワーカー、ケースワーカーのおこなう相談援助業務をケースワークと呼ぶ。この法律の実施を請求するものを請求者と呼ぶ。現に給付を受けているものを利用者と呼ぶ。

第11条 請求者及び利用者の全般的な義務
請求者及び利用者は、社会扶助の利用にあたり、この法律の規定に基づき、自分の力で可能な範囲において、その生活を維持向上させる義務を有する。ただし、この義務は、生活を再建するのにもっとも適した範囲でのみ生じるものである。

第2章 社会扶助を利用するためには

第12条 資産の取り扱い
1 社会扶助の新規給付開始にあたっては、請求者一人あたり100万円の現金を保有することが出来る。ただし、家族を単位に社会扶助をおこなう場合は、1家族あたり450万円を保有限度額とする。ただし、進学や就職等多額の現金が必要となる特別な事情がある場合には、これとは別に、実施機関はその保有を認めなければならない。
2 居住用の土地家屋については、実施機関は、その処分を求めてはならない。
田畑、山林、事業用家屋等の居住用以外の土地家屋についても、所有を認める。現に利用されていないそれらの土地家屋については所有を認めた上で賃貸を検討する。
3 事業用の設備等は所有を認める。現に事業用設備等として利用されておらず近い将来も利用見込みのないものは賃貸を検討する。将来にわたり利用見込みのないものは事業用設備ではなく第4項のその他の物品として扱う。
4 その他の物品については、自動車も含めて、地域での保有割合が70%を越えているものについては、実施機関はその処分を求めてはならない。有価証券貴金属や地域の保有割合が70%未満の物品については、その換価価値を現金保有に含めて扱うものとする。その場合であっても、請求者にとって、特別な意味を有する場合など、苛酷な処分はこれを求めてはならない。
5 生命保険や損害保険は、実施機関はその処分を求めてはならない。例外的に、処分価値が著しく高額なものについては、現金保有に含めて扱うものとする。その場合にあっても、請求者にとって苛酷な処分はこれを求めてはならない。

第13条 私的扶養の取り扱い
1 この法律における給付は、私的扶養が円満かつ現におこなわれている場合にのみ、その私的扶養給付の半分を請求者及び利用者の収入として認定し、減額することができる。ただし、扶養履行者が、請求者及び利用者の、法の目的に適した特定の需要に充てることを明示しておこなった扶養に関しては、収入認定することができない。請求者及び利用者が希望しない扶養は、いかなる場合においても、実施機関はこれを強制することはできない。
2 親の未成熟(中学校以下)の子に対する扶養及び夫婦間の扶養については、扶養義務者に十分な資力がある場合にのみ、実施機関は家庭裁判所に調停を申し立て、社会扶助に要した費用を請求することができる。

第14条 稼働能力の活用
失業は、自発的であると非自発的であるとを問わず、社会扶助の請求理由となる。稼働能力の活用は、社会扶助の利用後において、利用者の有する経験や身体状況等の稼働能力、地域における年齢別の有効な求人数に応じ、利用者の自己決定のもとにはかられねばならない。

第15条 情報提供義務
請求者及び利用者は、資産及び扶養、自己の稼働能力の状況について、実施機関に情報を提供しなければならない。

第16条 生活維持向上義務
請求者及び利用者は、生活再建に向けて、必要な助言と有効なケースワークを請求しながら、自己決定により、自らの生活を維持向上させなければならない。

第3章 社会扶助請求権を確実にするための手続的権利と争訟権の保障、不利益変更等の禁止

第17条 助言請求権
1 請求者及び利用者は、この法律の実施過程において、適正な手続を保障されるとともに、適切な助言及びケースワークを請求する権利を有する。この権利はいかなる場合においても制限されることはない。
2 助言が必要かつ十分でないと判断した場合、請求者及び利用者は、オンブズマンに苦情を申し立てることができる。オンブズマンは、実施機関の助言が適切でないと判断した場合、実施機関に対し是正勧告をおこなうとともに、自治体の広報誌にその結果を掲載させることができる。オンブズマンは、必要と判断した場合、請求者及び利用者と実施機関の双方もしくは一方を呼んで審理をおこなうことができる。

第18条 担当ケースワーカー変更権
1 請求者及び利用者は、自らの社会扶助実施にあたる担当ケースワーカーが、自分自身の性格傾向も含めて、自分にはふさわしくないと判断した場合、福祉事務所長に対し、担当ケースワーカーの変更を申し出ることができる。担当ケースワーカー変更の申し立ては、オンブズマンに対しておこなうこともできる。
2 福祉事務所長は、変更の申し出を受けたときは、遅滞なく担当ケースワーカーから事情を聞いた上で、他のケースワーカーに担当変更をおこなわなければならない。この権利を保障するために、ケースワーカーは必ず複数配置しなければならない。
3 オンブズマンは、担当ケースワーカーの変更が妥当と判断した場合は、福祉事務所長に対してその旨の勧告をおこなうことができる。

第19条 審査請求権
自己の権利を貫徹させるために、請求者及び利用者は、自己に対する社会扶助の決定に対し、都道府県及び中央の社会扶助審査会に審査請求をおこなうことができる。

第20条 不利益変更の禁止
利用者は法定の事由による他は、決定された社会扶助について、廃止又は変更を含めて一切の不利益な変更をされることがない。

第21条 公租公課の禁止、差し押さえの禁止
利用者は、いかなる場合においても、社会扶助費に対し、公租公課をかけられることがない。利用者はすでに給付された金品もしくは受給する権利を差し押さえられることがない。

第4章 社会扶助の基準

第22条 尊厳の原則
この法律による社会扶助の基準は、健康で文化的かつ人間の尊厳にふさわしいものでなければならない。

第23条 維持発展の原則
この法律による社会扶助の基準は、憲法第25条の規定に基づき、国民生活水準の発展にともない、維持発展するものでなければならない。国民生活の消費水準と労働者の賃金水準及び物価水準は、社会扶助の基準の重要な指標となる。

第24条 基準の決定
この法律による社会扶助の基準は、社会扶助審議会の答申をへて、法別表として、毎年の国会審議により法定されなければならない。

第25条 増加需要の原則
1 65歳を超える高齢者には、通常の生活費給付の20%の増加需要が認められなければならない。
2 18歳未満の子を1人で養育する利用者には、児童が3人までの増加需要は40%、4人以上の増加需要は60%を認めなければならない。
3 妊娠12週以上の女性には、通常の生活費給付の20%の増加需要が認められなければならない。
4 年金別表の1,2級の障害者には、通常の生活費給付の40%の増加需要が認められなければならない。3級の障害者には、通常の生活費需要の20%の増加需要が認められなければならない。
5 疾病その他の生活上の困難については、上記と同程度の困難が認められる場合、通常の生活費給付の20%の増加需要が認められなければならない。その認定は実施機関がおこなう。また、実施機関は事例の報告を国におこない、国においては、類型化を図ったうえで、新たな基準改正の参考にするために、前条の社会扶助審議会に報告しなければならない。
6 第1項から第5項の増加需要については、全体で100%を超えることはできない。

第26条 必要即応の原則
1 類型的な増加需要とは別に、個人ごとの特別な需要については、人間の尊厳にふさわしい生活を確保するために、実施機関は必ずその特別な需要を満たす給付をおこなわなければならない。この原則は、次章に規定するすべての給付を支配する根本的な原則である。
2 個人ごとの特別需要に対する給付を認定した実施機関は、前条第⑤項の報告を国におこない、国は社会扶助審議会に遅滞なく報告しなければならない。

第27条 社会扶助の支給の判定
社会扶助は、請求者ごとに積み上げられた需要と請求者の収入を対比して、収入が足らない場合に、不足分が支給される。

第28条 単独給付
1 前項の規定にかかわらず、教育費給付、介護給付、医療給付、就労給付については、それぞれ単独で請求し、給付を受けることができる。また、4種類の扶助を組み合わせて請求することもできる。
2 その場合、請求者の収入から、当該請求者の生活費を含めたすべての需要について算定された社会扶助給付金額を2倍し、その金額を控除する。
3 現金については一般基準の2倍までその保有を認める。また、その他の物品や生命保険等の換価価値保有限度額についても、一般基準の2倍とする。

第5章 各給付

第29条 給付の種類
1 給付の種類は、次のとおりとする。
  1 生活費給付
  2 住宅費給付
  3 教育費給付
  4 介護給付
  5 医療給付
  6 就労給付
  7 出産給付
  8 葬祭給付
2 前項各号の給付は必要即応の原則により、単独で、または組み合わせて給付される。

第30条 生活費給付
1 継続的な生活費の給付は、暦月を単位にしておこなわれる。ただし、ホームレスへの生活費給付の際など、必要な場合は、日々単位の生活費給付も可能である。ただし、日々単位の生活費給付を懲罰的な生活費給付の形態とすることは、いかなる場合であっても許されない。
2 社会扶助の開始時などにおいて、生活を再建し、健康で文化的な生活を確保する上で、不足する物品その他があり、その確保のために一時的な費用が必要となる場合は、経常的な生活費給付とは別に、生活費の給付をおこなわなければならない。
3 生活費給付は、第7条に規定されるとおり在宅においておこなうことが基本であるが、本人が自己決定により選択するなどの場合は、施設においておこなうことができる。
4 定まった住居を持たないものは、直ちに住居の確保や入所利用施設の利用を請求することができるが、自己選択により、現在の生活の場において生活費給付の支給を利用することもできる。この場合、実施機関は、適切なケースワークを通じて、請求者及び利用者の潜在的な需要等を十分考慮し、より適切な生活の場を保障できるように努めなければならない。
5 定まった住居を持たず、行政などへの不信や精神的な疾患を抱えているなどにより、当面前項までの生活費給付を希望しないものに対しては、実施機関は、デイケアセンターを設置して、毎日の食事・衣類・シャワー・各種情報などを提供しなければならない。ただしそれらの管内のホームレスが50人以内の場合はデイケアセンターを設置せず、福祉事務所にその機能を持たせることができる。

第31条 住宅費給付
1 借地・借家の賃料に対する経常的な住宅費の給付は、最低居住水準を保障する水準までは、必ず給付しなければならない。
2 定まった住居をもたないもの、住み続ける権利が不安定な住居に住むもの、最低居住水準に満たない住居に居住するものなどが、最低居住水準を満たす安定した住居を希望する場合は、実施機関は転居費用や賃料を支給し、これを保障しなければならない。適切な物件がないか少ない地域においては、実施機関は公営住宅の建築等を自治体や国に働きかけなければならない。また、福祉的援助を必要とする人のためにはケアホームが提供されなければならない。
3 賃料が、最低居住水準を満たす当該地域の他の物件の水準から、3倍を越えて、突出して高額な場合は、3倍の額を限度に給付額を設定することができる。
4 この場合において、利用者は、公営住宅等の他の賃料の適切な物件に転居する費用を請求することができる。
5 持ち家も含めた家屋の補修費用については、最低居住水準を確保する水準までは、必ず給付されなければならない。
第32条 教育費給付
1 小学校、中学校、高等学校の費用は、公立・私立を問わず、すべてこの法律によって給付される。
2 この費用は、通学のための被服費や学外活動費など間接的経費も含めた網羅的なものでなければならない。
3 大学への進学費用については、国立大学の学費を限度として給付しなければならない。ただし、これによりがたい特別な事情がある場合は、実施機関の判断で特別な需要を満たす給付をおこなわなければならない。

第33条 介護給付
1 この法律による介護の給付は、利用者の生活実態に応じて、網羅的かつ包括的で、利用者の尊厳を確保できるものでなければならない。直接的ハンドサービス以外の見守りや外出の付き添い、家事援助等はすべて本法による給付の対象である。介護保険からの給付は、介護給付の一部を構成するにとどまる。
2 在宅の原則は何よりも重視されなければならない。

第34条 医療給付
1 この法律による医療の給付は、国民皆保険の原則を踏まえ、利用者の各医療保険の保険料と一部負担金の給付を原則とする。無保険者は社会扶助の開始とともに国民健康保険の被保険者となる。
2 医療保険の給付内容では生活が保障されない場合は、必要に応じ医療給付が支給されなければならない。
3 この場合、社会扶助の実施機関は、医療給付の内容が医療保険からの給付で本来まかなうのが適当と判断した場合は、医療給付をおこないつつ、医療保険者に対し給付を求める訴えを起こすことが出きる。

第35条 就労給付
1 就労給付の目的
この給付は、稼働年令にあるものに対して、実施機関が、就労の機会を直接給付すること、就労に向けた職業訓練の費用を給付することを目的とする。
2 就労給付の対象者
この給付の対象者は、稼働年齢(18歳から60歳)にある者のうち、
(1)身体的または精神的に就労が困難
(2)新たな職に就くことが、その人が従来おこなってきた仕事に今後従事することを著しく困難にさせる
(3)1歳未満の乳児の育児をおこなっている、家庭の維持に特別の需要を有する、親族を介護している
など、重要な要因によって労働につくことができない者を除いた、就労可能な者である。
3 就労給付の種類
就労給付の種類は、職業訓練給付、就業機会給付の2種類とする。
4 職業訓練給付
一般就労をおこなうことが困難な利用者に対しては、職業訓練給付をおこなう。この給付は、利用者の状態に応じ、授産施設での就労や職業訓練校等での訓練等必要に応じて給付されなければならない。授産施設での就労に対しては、施設の運営費や人件費等の補助金として給付できる。職業訓練校での訓練に対しては、社会扶助費から独自の訓練費を支給する。
5 就業機会給付
一般就労が可能な利用者に対しては、
(1)一般企業での就労に際しての雇用主への補助金給付
(2)仕事に就けないものに対する雇用機会の創出
をおこなう。
雇用主への補助金には、当事者団体等のNPOが創出した就労機会への補助金が含まれる。
雇用機会の創出に際しては、各種社会保険の加入及び地域の公務員賃金を参考にした賃金水準が確保されなければならない。
6 就労給付とケースワーク
就労給付の支給に際しては、機械的な指導や全般的な義務の過度の強調をおこなってはならない。本人のおかれた生活状況を的確に把握するとともにその意欲を引き出し、本人の自己決定のもとに支給が決定されなければならない。そのために、就労給付の支給に際しては、ケースワークが特別に重視されなければならない。

第36条 出産給付
出産に関する給付は、医療機関、助産施設、助産院、入院、在宅など、本人の選択によって給付されなければならない。出産給付は妊婦産婦及び新生児のすべてのニーズに応じた網羅的なものでなければならない。

第37条 葬祭給付
葬祭に対する給付は、単身利用者の死亡の場合も含めて、人間の尊厳に値する基準で給付される。単身利用者の死亡に対する給付は、遺族もしくは関係者に対しておこなわれるが、この給付に関しては扶養義務履行を求めてはならない。

第6章 実施体制の基準と施設の種類及び基準

第38条 ケースワーカーの配置基準
実施機関は、都市部においては利用者60人に対して1人、郡部においては利用者40人に対して1人のケースワーカーを配置しなければならない。ケースワーカーは、社会福祉主事の資格を有し、人権の尊重と生存権の保障に深い理解と洞察を持つものでなければならない。

第39条 査察指導員の配置基準
実施機関は、査察指導員を、ケースワーカー5人につき1人配置しなければならない。査察指導員は、ケースワーカーの経験を有するとともに、社会福祉に対し深い熱意を有するものでなければならない。

第40条 専任義務
実施機関は、前2条に規定するケースワーカーと査察指導員及び福祉事務所長を必ず専任で配置しなければならない。

第41条 研修権
人権の尊重と生存権の保障に対する理解と洞察を深めるとともに、さまざまな生活問題や社会資源などの十分な知識を獲得するために、実施機関の職員は十分な研修を受ける権利を保障される。

第42条 国の人件費保障義務
国は、ケースワーカー、査察指導員、福祉事務所長の人件費を自治体に対して保障しなければならない。

第43条 施設の種別と基準
1 この法律で定められた施設は、健康で文化的な、人間の尊厳にふさわしいものであるだけでなく、地域住民にとってその存在が誇らしくなるようなものでなければならない。施設は、地域に開かれ、地域住民が気軽に集まれ、利用でき、地域の福祉水準を高めるものでなければならない。事務費や人件費をはじめとした施設の運営経費は、すべて国の負担とする。
2 入所利用施設の種類は、住居提供施設とケアホームの2種類とする。
3 住居提供施設は、住居のない請求者及び利用者や、何らかの理由により一時的に住居での生活が困難な請求者及び利用者が利用できるものとする。住居提供施設においては、利用者10人に対して1人のケースワーカーを配置しなければならない。
4 ケアホームは、何らかの生活上の困難のために、適当な援助者のもとに、集まって住むことを希望する請求者及び利用者が利用できるものとする。ケアホームの形態及び運営、援助者を公的なケースワーカーとして配置するかどうかなどは、当事者や援助者の自己決定を尊重することとし、基本的に公的に担保すべき課題や水準などの詳細は政令で定める。ケアホームの運営を適当なNPOに委託することは可能である。
5 通所利用施設として、デイケアセンターを設置する。デイケアセンターは、住居のないものや生活に困難を抱えるもののために、毎日の食事・衣類・シャワー・各種情報などを提供する。デイケアセンターの形態及び援助内容、運営、援助者を公的なケースワーカーとして配置するかどうかなどは、当事者及び援助者、コミュニティーの住民などの自己決定を尊重することとし、基本的に公的に担保すべき課題や水準などの詳細は政令で定める。デイケアセンターの委託を適当なNPOに委託することは可能である。

第7章 実施機関・自治体の義務

第44条 管内低所得者調査義務
1 実施機関は、国勢調査等の調査やアンケート調査、実地による調査、電気ガス水道の事業者等との連携など、あらゆる努力を払い、管内の住民の所得状況を把握し、健康で文化的な、人間の尊厳にふさわしい生活を下回って放置される住民が1人も出ないよう、最大限の努力を尽くさなければならない。その際、住民の自己決定を保障するために、当事者が望むさまざまな選択肢を提供しなければならない。
2 とりわけ、ホームレスが管内に居住する自治体は、少なくとも月に一回、相談会の開催やケースワーカーの面接訪問をおこない、当事者が希望すれば速やかに野宿状態から在宅もしくは入院入所に移行できるよう、個別援助やコミュニティー援助をおこなわなければならない。在宅や入院入所を希望しないものについては、生活費給付の利用やデイケアセンターの利用、医療給付等の利用などをすすめるなど、情報提供や援助をおこなうものとする。
この規定は、ホームレスの排除のために設けられたものではないことは当然であり、いかなる排除もおこなってはならない。
3 前項の目的達成のため、一般のケースワーカー配置とは別に、ホームレス30人に対し1人のケースワーカーを必ず配置しなければならない。

第45条 捕捉努力義務
前条における調査の結果、社会扶助を要すると認められた人数に対し、実際に社会扶助を利用している人の数が70%に達するまでは、実施機関及び自治体は広報を徹底し、社会扶助制度の住民全員への周知と住民が制度を利用しやすい環境をつくらなければならない。また、職権社会扶助適用の強化をはからなければならない。

第46条 広報・周知義務
実施機関及び自治体は、住民に対し自治体広報誌をはじめあらゆる媒体を通じて、この法による給付の周知をはからなければならない。

第47条 職権社会扶助義務

実施機関は、前2条の努力をおこなうとともに、自分の意志で社会扶助申請をおこなうのが困難な人をはじめとして、健康で文化的な、人間の尊厳にふさわしい生活が侵害されているにもかかわらず社会扶助を利用していない人に対し、職権で社会扶助を適用しなければならない。
第48条 施設の建設義務
管内低所得者調査において、住居を失いかけているもしくは、失った人が多数存在するなど、社会扶助施設を建設する必要性を把握した自治体は、速やかに、住宅や施設を建設・整備し、給付の選択肢を増やして市民に提供しなければならない。

第8章 実施機関の権限

第49条 資産調査
この法律による給付は、請求者及び利用者の人間としての尊厳を遵守するとともに、その自己決定により実施される。したがって、資産調査については、極力自己申告に基づいて取り扱わなければならない。ただし、請求者及び利用者の自己申告について、疑うに足る必要かつ十分な根拠がある場合、実施機関は、あらかじめ請求者及び利用者に対し、疑義を持つに至った理由を開示するとともに調査をおこなうことを通告し、5日の猶予期間をおいた上で官公署、金融機関、生命保険会社、雇用主などに対して調査を依頼することができる。
この調査に不服がある請求者及び利用者は、調査通告に対し審査請求及びオンブズマンへの苦情相談をおこなうことができる。調査に関する審査請求は、実施機関の調査権限に対する執行停止効力を持つ。都道府県社会扶助審査会が審査請求を棄却したときは、実施機関は調査権を回復する。オンブズマンへの苦情相談及びオンブズマンの勧告には執行停止効力はないが、実施機関はその意見を十分尊重しなければならない。

第50条 健康検診
稼働能力の前提となる身体状況や、生活費給付の算定上障害の有無等を判定するために、実施機関は、利用者に対し検診を受けることを求めることができる。
利用者がこれに応じないときは、必要な場合は、実施機関は利用者に対し、検診を受けることを指示することができる。

第51条 指示と反論
1 指示
実施機関は、自己決定と尊厳の原則を大原則としつつ、どうしても利用者の生活維持と生活再建に必要な場合は、法律に基づき、最小の範囲において、利用者に対し指示をおこなうことができる。
この指示は、助言とは明確に区別される。指示は、文書においておこなわなければならない。また、利用者に対し、反論の機会を与えることを説明し、文書にも明記しなければならない。
2 反論
利用者は、実施機関に対し、その指示に対する反論をおこなうことができる。また、その反論に際して、必要な第三者の立ち会いを要求することができる。
利用者は反論をおこなわずに、指示に対し不服申立をおこなうこともできる。

第52条 再度の指示および生活給付の25%削除
前条の指示に利用者が従わない場合、または、利用者の反論により実施機関が再考してもなお指示が妥当なものと判断される場合は、実施機関は生活給付の25%を削減することを明記して、文書で再度指示をおこなうことができる。この場合、その処分の実施までに、必ず利用者に反論の機会を与えなければならない。

第53条 再々度の指示と懲罰的停止・廃止
前条の規定による懲罰措置によっても、なお、本法の生活保障実施の効果を無に帰するほどの重大な利用者の義務違反があり、社会扶助の停止もしくは廃止によるしか義務違反の改善ができないと認められる場合は、実施機関は、再々度の指示をおこなった上で、懲罰的な停止もしくは廃止をおこなうことができる。この場合、処分の実施までに、必ず利用者に反論の機会を与えなければならない。懲罰的停止もしくは廃止をおこなった実施機関は、その対応の妥当性の検証及び今後の社会扶助実施上の参考のために、すみやかに社会扶助審議会に報告しなければならない。

第9章 社会扶助の機関及び管轄、国の関与

第54条 福祉事務所
都道府県知事及び市町村長は法定受託事務として社会扶助の実施をおこなう。市町村は福祉事務所を設置する。都道府県は福祉事務所を設置し、福祉事務所の設置されていない町村管内の社会扶助を管轄する。福祉事務所には、所長、査察指導員、複数のケースワーカーを必ず配置しなければならない。

第55条 実施機関の管轄
都道府県知事及び市町村長は、管内に住所もしくは現在地を有する請求者及び利用者について、この法による社会扶助の実施責任を負う。

第56条 国による助言・勧告・事務処理基準
国は、全国一律に標準水準の社会扶助実施を確保する必要のために、地方自治法に定めるところにより、実施機関に対して必要な助言もしくは勧告をおこなうことができる。また、国は、全国一律に標準水準の社会扶助実施を確保する必要のために、地方自治法に規定する事務処理基準を定めることができる。ただし、地方自治の本旨に基づき、この規定による関与は必要最低限にとどめなければならない。

第10章 オンブズマン、審査機関、審議会

第57条 オンブズマン
オンブズマンは、請求者及び利用者の利益を代弁する機関であり、自治体の長が、人権の尊重と生存権の保障に深い理解と洞察を持つ学識経験者、弁護士等から選任する。オンブズマンは最低でも3人とし、意思決定については合議制とする。オンブズマンは行政からは独立した存在であり、非行や心身の故障等の解職事由に該当し、かつ、議会の同意がない限り、任期中はその意に反して解職されることがない。オンブズマンは、利用者からの苦情処理にあたり、福祉事務所長に対して、是正勧告や意見の表明をおこなう。また、自ら必要な調査をおこない、社会扶助実施のあらゆる課題について、法の目的達成のために、意見表明や勧告をおこなうことができる。

第58条 審査機関
審査請求についての審査をおこなうために、都道府県単位と中央に社会扶助審査会を設置する。
社会扶助審査会は、利用者代表、学識経験者等公益代表、行政代表の三者で構成する。

第59条 審議会
社会扶助の基準や各給付のあり方、法改正等について審議するために、中央に独立機関として社会扶助審議会を設置する。社会扶助審議会は、利用者代表、学識経験者等公益代表、行政代表の三者で構成される。

第11章 審査請求及び再審査請求、訴訟

第60条 審査請求
1 審査請求を受けた都道府県社会扶助審査会は、請求者及び利用者と実施機関双方の主張を聞く審訊を必ずおこなった上で、30日以内に裁決をおこなわなければならない。ただし、裁決前に実施機関に是正の勧告をおこなうことを妨げない。是正の勧告をおこなった場合は、請求に対して認容もしくは一部認容の裁決をおこなわなければならない。
2 請求者及び受給者は審査会が30日以内に裁決をおこなわない場合、審査請求を棄却したものとみなすことができる。

第61条 再審査請求
都道府県社会扶助審査会の裁決に不満があるときは、請求者及び利用者は中央社会扶助審査会に再審査請求をおこなうことができる。再審査請求を受けた中央社会扶助審査会は、請求者及び利用者と実施機関双方の主張を聞く審訊をおこなった上で、50日以内に裁決をおこなわなければならない。ただし、裁決前に実施機関に是正の勧告をおこなうことを妨げない。是正の勧告をおこなった場合は、請求に対して認容もしくは一部認容の裁決をおこなわなければならない。

第62条 執行停止命令
審査会は、生命等の重大な法益が侵害されていると認めた場合は、裁決前に、実施機関に対して当該処分の執行停止命令をおこなうことができる。この場合、実施機関は、社会扶助の変更・停止・廃止にあっては処分前の社会扶助の継続を、開始申請に対する却下については社会扶助の開始をおこなわなければならない。

第63条 訴訟
審査請求及び再審査請求において解決しない場合は、請求者及び利用者は、訴訟を提起することができる。また、利用者は審査請求をおこなわずに訴訟を起こすことができる。実施機関の敗訴が確定した場合は、実施機関は、訴訟費用を負担しなければならない。

第12章 利用者への償還請求

第64条 急迫等やむを得ない場合に資力を有しながら受けた給付に対する償還請求
1 急迫等やむを得ない場合において法に規定する資力を超えて多額の資力を有した請求者に対しては、急迫の事情がやみ生活が安定し、実施機関が利用者に求償権を行使することが酷でなくなった時に、実施機関は社会扶助に要した費用を限度として、その全部または一部を請求することができる。この場合の実施機関の裁量は、生活の再建という本法の本旨に照らして判断されなければならない。
2 社会扶助費からの費用返還はこれを求めることができない。

第65条 故意等によって本来受けるべき給付を超えた給付を受けたものに対する償還請求
1 故意等によって、利用者及び請求者が本来受けるべき給付を超えて受けた給付に対しては、実施機関は返還請求をおこなうことができる。ただし、その利用者の特別な事情を考慮してやむを得ない場合は前条の規定を準用する。
2 社会扶助費からの費用返還はこれを求めることができない。

第13章 費用負担

第66条 全額国家負担
この法律の給付に関する国庫負担は全額国の義務的負担とする。

第14章 他制度との関係

第67条 優先関係
この法律に規定する扶助は、他の社会保障制度との関係では、その給付が現に受けられる限りにおいて、その給付を優先させるものとする。

第68条 他制度優先給付争訟
年金、医療保険等の他の社会保障制度との間において、その適用に争いがある場合は、実施機関の長は地元の地方裁判所にその調停を申し立てることができる。

第69条 社会保障増進義務
本法による社会扶助給付は、市民生活の最後のセーフティーネットであり、国は、憲法第25条の規定を踏まえ、年金・医療その他の社会保障給付制度を充実させ、セーフティーネットの利用に至るまでに、市民の生活が保障されるよう万全の方策をとらねばならない。

第15章 地方分権

第70条 地方自治体の自主性の尊重
1 この法律による基準は、すべて維持発展させるべき基本的なものであり、地方自治体がその基本的基準を超えて、自らの判断で、住民や滞在する市民により高度な社会扶助給付をおこなうことは当然の権利である。国は、そのような自治体を奨励援助するとともに、基準を審議する社会扶助審議会に対し、より進んだ実態を報告しなければならない。
2 いかなる場合であっても、この基準を下回る給付を自治体独自に設定することは許されない。